うちの数だけみその味
去年の夏、友人のカミくんと一緒に五味醤油を訪ねてくれた鹿児島県肝付町のスーパー保健師ノセさん。
地域のおばあちゃんたちが元気に暮らせるサポートをしている中で、昔から続く手仕事や季節仕事を継承していく活動をしています。そんななかわたしが手前みそづくり教室をしている話をすると、前のめりで話を聞いてくださり、いつかぜったいワークショプしにきて〜!と熱い握手を交わしたのでした。
それからちょうど1年、、、
ノセさんとの約束を果たし、鹿児島でワークショップを行うことになりました。
鹿児島は麦みそ(写真上)を食べる文化圏、そして山梨のみそ(写真左)よりも麹歩合(みそのレシピのなかで麹がの割合がどれくらいかという比率)が高く甘いことが特徴です。山梨のように、鹿児島も手前みそをつくる文化が今も残っているとのこと。ただ、年を重ねるにつれ力仕事が困難で手間みそづくりを断念する方が増えているとのことでした。手作りの文化、手前みそを残したい!という今回のミッション。
いつもわたしはワークショップは煮た大豆を用意して、こうじと塩を混ぜ合わせる工程を2時間ほどで行います。という話をノセさんにしたところ、、、
「えーーーーー!1日でおみそづくりできるんですかー!」
と驚きの声が。
確かに、前日に大豆を洗ったり、仕込みのあと発酵させるので、正確には1日では終わりません。
ただ話を進めていくと、肝付のおばあちゃんたちのみそづくりは3日はぜったいにかかるというのです。というのも、
なんと!こうじづくりから自家製していたのです!!!!
こうじから自家製しているという肝付町のみなさん。タツ子さん、その子さん、ひろこさんという町の料理名人にそれぞれの家庭のレシピを聞いたところ三者三様。こうじ歩合はもちろんですが、麦こうじだけでなく、米こうじ(うるち米)、もち米こうじを合わせていたり、なんと仕込段階に焼酎やクエン酸を入れるとのこと!このレシピを聞いた時点で私のテンションはマックスに!
こうじから自家製する手前みそ素晴らしすぎるーー!!と。
こうじづくりは、温度管理がとても重要で、こうじ菌をつけてから温度の上がり具合をまめに確認しなくてはいけません。つまりこうじができるまでほぼ張り付けでないといけないのです。さらに作る量もみなさん出来上がりで、40kgほど、、、こうじづくりをする労力だけでなく、多めの仕込なので、単純に力仕事で大変です。みそづくりは過酷な季節仕事。というイメージが根付き、継承されなかったり、年々手前みそをする人が減って来ているという現状でした。
今回私が手前みそワークショップで訪れたのは、大隈半島の東側にある肝付町というイプシロンが打ち上がられた内之浦宇宙空間観測所のある町です。
肝付のみなさんが残してきた手作りの文化、手前みその文化を残したい!という今回のミッション。こうじも自家製する文化はとても素晴らしいし、残していくべきですが、今回は、気軽に楽しくみんなで作るというテーマをメインとして、乾燥こうじを持ち込み、1日でできる手前みそづくりを提案する!ということになりました。
みなさん自家製こうじが当たり前なので、乾燥こうじを見るのも触るのも初めて。こうじというと言うと種こうじ(こうじの元)のことをいうのです。道の駅や、直売所、Aコープにも売っているのは種こうじだというからびっくり!
甲府から1,300km離れた場所でのワークショップの始まりはじまり〜。
この日は、地域のとっても元気なお年寄りと子どもたちの交流の日。子どもとおばあちゃんのチームにわかれ、全体で40kgのみそを仕込をしました。
大豆が蒸しあがり、皆で手で潰していきます。いつもはみなさんお家や加工所にある豆を挽く機械を使用するそうですが、この日はすべて素手で。
仕込んだみそ20kgは役場で管理。残り20kgは参加した子どもたちがそれぞれ1kgずつ持ち帰り育てます。
仕上げは、焼酎を表面に塗り、カビを防止に。いつもは塩を振りますが、この日は鹿児島ルールで焼酎に。おいしいおみそになりますように。
この後、参加者全員で手前みそのうたをダンス!たぶんこの日1番の盛り上がりでした。おばあちゃんたちはもっと踊りたい〜。というくらいとっても元気!
最後にせっかくなので、甲州名物のほうとうをみんなで食べて、ワークショップはお開きに。
こうじを持ち込み、出来上がったこうじを使用した少量からつくれるみそづくり。参加者の保護者の方からは、みそづくりのハードルが下がりました!と喜びの握手を求められたり。ママ世代の手前みそへのハードルを下げ、みそに興味を持つきっかけや、皆で楽しみ、みそを通したコミュニケーションが生まれる場となりました。
鹿児島の手前みそは自家製こうじから作るもの。
山梨の手前みそはこうじ屋さんのこうじで作るもの。
文化やルールの違い、まさに手前みその醍醐味です。
作り方が違っても、発酵期間の長さが違っても、味噌は味噌。自分のおうちのが1番美味しければそれでいい。そんな風に思います。
今回貴重な機会をいただき、みそづくりがコニュニケーションの場となること。作業ではなく楽しみながら作ることで、食に興味を持つ入り口になること。そんな可能性を新たに感じる時間になりました。でも、鹿児島の自家製こうじの文化も継承していくお手伝いができたらいいな〜。といつか肝付のおばあちゃんの手前みそづくりに泊まり込みで参加したい!という次なる目標がきました。
素敵なミッションを与えてくれた、ノセさん、トミミツさん。サポートいただいた役場の皆様、ありががとうございました。そしてきっかけとなるご縁をくれたカミくんありがとう。レシピの相談にのってくれたジュンペイさんもありがとうございました!!
最後の余談、、、
今回ワークショップを行った会場は、農産物加工施設でもあり、なんと調理室にはこうじ室がありました!ちょうど別のグループの方達がみそづくり用のこうじづくりをしていました。
こうじ蓋のなかには、麦こうじが
種付けして、20時間たった麦こうじ。24時間で出麹します。
大豆はこうじ用の麦を蒸す時にいっしょに蒸すそうで、蒸しあがったらミンチ状に挽いて、塩と混ぜて、麦こうじができるまで一晩このままにしておくそうです。
日本は広い。手前みそはおもしろい。
てまえみその歌にこんな歌詞がある。
うちの数だけ、みその味。
まさに!みそを作るひとの数だけ、それぞれのみその味がある。そんな素敵な文化をこれからも残していけるように。
まだまだできることは、ある。
この記事を書いた人 五味 洋子
発酵兄妹(妹)三兄妹の末っ子として生まれ、高校卒業まで甲府市で育つ。東京農業大学醸造科学科を卒業後、2009年ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや、新規事業部で商品企画を担当。2013年山梨へUターン。2014年五味醤油入社。六代目を務める兄仁と二人三脚で奮闘中。WEBマガジン〔大人すはだ〕コラム連載。YBSラジオ〔発酵兄妹のCOZYTALK〕出演中。